季語は「蛇笏忌」 秋 10月3日 第三句集「山明り」所収
この栞は、私の親友の奥さまが中学校時代の恩師からいただいた物の一つです。恩師は95歳、終活で、大切にしていたものを奥さまに託したと聞きました。きっと、その先生は、栞を本に挟んで、長い間大事に使っていたのでしょう。先日、そのことを奥さまからお聞きました。
母に伝えました。
母は、
「てっ!そんなこんがあるだねえ。この句は確かに私の句だよ(そりゃあそうだろう)。何て幸せなこんだろう。俳句をやってて良かったよお」
とつぶやきました。
この花は、母の俳句の師である、飯田蛇笏・龍太が暮らしていた、山廬の庭にある「秋明菊(しゅうめいぎく)」の花。蛇笏の命日に山廬を訪ねた時に咲いていたそうです。花びらの辺りを吹く「風」も、花に当たる「ひかり」も、その周囲のものすべて含めて、今日は蛇笏先生の忌日だなあ。と感慨をこめて詠っています。蛇笏先生に寄せる母の思いを感じます。
この句は、その思いを何も言わずに、ただ、「秋明菊の花」「風」「ひかり」に託しているのです。見た物、感じた事を、在りのままに、季語に託し、五七五の調べに乗せて。俳句の基本中の基本と言える、抒情的な俳句です。その場に臨み、物を見て、感じなければできない句です。
子供のころに実の父を亡くした母は、蛇笏先生を父親のように思っていたそうです。