「青梅」は熟す前の青い実のこと。青梅が目立ち始めるのは初夏である。
遠縁といふ男来て梅落とす 廣瀬直人 句集『遍照』所収
見かけたことのない男が家にやって来て、勝手に庭に入り込んで、梅の木を見上げている。
「この梅の木は先々代の豊平さんが植えた甲州野梅だね。立派になったもんだなあ」
「誰でえ」
「南の家の庄司さんの兄の銀平さんの長男の息子の・・・まあ、親戚さあ。遠縁だけんどね。ちょうどいい塩梅だ。ちっとばっかし、捥がせてくりょう」
「ほうけ、ほんじゃあ、たくさん捥いでけし」
大らかなものである。
血縁、地縁など、昔は人との関りが濃密であった。
先日、弟がこの梅の二代目の木が実らせた梅を捥いで行った。
「兄貴、下の枝の梅が捥がれていたみたいだぞ。誰かが取っていったのかもしれん」
「親父が捥ぎに来たんじゃないのか。この梅の塩漬けはカリカリで絶品だからな」
甲州小梅床の間の日本刀 廣瀬悦哉 『夏の峰』所収 平成二十九年作