五月二十八日の俳句日めくりはこの句。
凄い句だなあと恐れ入ってしまった。客観写生句、見たものを見たままに描写することの真髄を見せられたような気がして。
何匹かの天道虫だましと天道虫が眼前に現れて、想像を誘い詩情豊かだ。
高野素十は、高浜虚子に師事した、明治、大正、昭和期の俳人。医者で、医学博士でもある。水原秋桜子、山口誓子、阿波野青畝とともに「ホトトギスの四S」と称された。
方丈の大廂より春の蝶
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫
甘草の芽のとびとびのひとならび
空をゆくひとかたまりの花吹雪
づかづかと来て踊子にささやける
桃青し赤きところの少しあり
ばらばらに飛んで向ふへ初鴉
などの代表句がある。主観を排した純客観写生を徹底し、「些末主義」とか「草の芽俳句」とか揶揄もされたが、対象に焦点を絞っての徹底したリアルな描写は、物や事、生き物の本質に迫る力がある。
こういう俳句好きだなあ。こうした徹底した描写の先にこそ俳句の新しさが潜んでいるような気がする。